トップメッセージ

外的要因をチャンスにする「実力の底上げ」へ

 新型コロナウイルス感染症の影響が長期化したことに加え、ウクライナ情勢、半導体・部品供給不足による自動車生産台数の減少などもあり、中長期経営目標「SUMINOEGROUP WAY 2022~2024~2027(以下SGW)」策定時の目標には達していません。ここ数年の状況を見ると、当社グループの業績は外的要因の影響を大きく受ける傾向にあります。この先も様々なリスクに加え、CASEによる自動車業界の大変革なども予測されるなか、外的要因による事業へのマイナス影響をできるだけ早く把握し、また、プラス影響は最大化していくため、高付加価値製品の開発や販売網の拡充、成長分野へのシフトなど、「実力の底上げ」を図る必要があると痛感しています。特にCASEによる電気自動車の生産増は、私たちにとって市場拡大のチャンスです。自動車産業の構造転換という大きな流れのなか、電気自動車へのシフト率が日本を大きく上回る海外の自動車メーカーにも積極的にアプローチすることで、当社グループのシェアを大幅に拡大することができると考えています。そのためにメキシコでの生産増強など、着々と準備を進めています。

 このように「実力の底上げ」を確実に進め、企業競争力を高めることが、SGW の「連結売上高1,000億円以上、営業利益率5%以上」という目標達成にも繋がります。仮に売上高が1,000億円で営業利益率が5%なら営業利益は50億円となり、外的要因による変動があっても、経営資源を最適化し、対応することができます。まずこの水準に達することを目標に、業績を引き上げていきます。

住江織物から「SUMINOE GROUP」へ

 M&Aに積極的に取り組んできた結果、国内外を合わせ30社のグループとなるまでに拡大し、今後、グループシナジーの最大化が「実力の底上げ」に大きく寄与すると考えています。そこで、グループとしての一体感を高め、シナジーをより発揮できる体制構築を行うべく、2023年6月、「SUMINOE GROUP」として新たな一歩を踏み出しました。グループ名をアルファベット表記にすることでグローバルでの認知度向上に繋げ、業界の先駆者としてのさらなる革新と、新規領域の開拓に挑戦する意気込みを表しています。さらに未来を見据え、MISSION「くらしに寄り添う技術とアイデアで人と社会にやさしい空間を世界中へ。」をはじめとするグループ理念を策定しました。創業140年の伝統と革新の両輪から未来に挑戦するSUMINOE GROUPの企業価値を高め、MISSIONを追求し、VISION「時代や地球と調和する『新しい快適のスタンダード』を織りあげよろこび広がる未来のくらしをつくる。」の実現に向け、グループ一体となって「今まで以上にチャレンジする会社」を目指します。

 そのために、社員全員の意識改革にも力を入れています。グループ理念も、「シン・ミライPROJECT」で行った全グループ会社社員対象のアンケートや社長・役員ヒアリングなどをベースに、若手・中堅社員を中心とした議論を重ね作り上げたものです。私自身も住江織物(株)の若手社員からベテラン社員までの各世代と直接意見交換を行う「ツナグ座談会」を実施したほか、部門間やグループ会社間で技術やアイデアを共有、連携する取り組みとして「ツナグ輪ーケーション」も開始しています。

今後、社内研修などを通してグループ理念の浸透を図り、各部門・部署・個人の目標にまでしっかりと落とし込むとともに、部門や会社の枠を越えた交流を活性化させることで、様々な変革に繋げていきます。

時価総額を常に意識し、IR強化と将来を見据えた「種まき」に注力

 私が社長になったのは2021 年8月、プライム市場を選択した直後で、その実行役を担うことになりました。当時、株価が1,461 円にまで下落したこともあり、時価総額をいかに上げていくかは、私の最重要経営課題であり続けています。2023 年7月14日時点で株価は2,584 円にまで上げることができていますが、PBR1 倍の基準からすると、時価総額を現状の約180億円から300~400億円の水準に引き上げることが求められ、まだ道半ばという状況です。それでも着実に一歩ずつ取り組みを進め、IRの充実を図ってきた結果、算定基準日である2022 年12月31日時点で「1日平均売買代金」の基準を充たし、未達の上場維持基準は「流通株式時価総額」を残すのみとなりました。こちらも、2024 年5月31日までに充たせるよう、着々と企業価値向上に向けた取り組みを進めているところです。

 またこの2年間で、頭に描いていたことはほぼ具現化できたという手応えもあります。その最たるものが自動車内装事業におけるメキシコでの合成皮革工場新設です。北中米向けの自動車、特にシートに関する組立工場が集約しているメキシコという地に製造ラインを新設することは、供給リードタイムの短縮という点でも非常に有効です。天井材、シート表皮材、カーマット、フロアカーペットなどの自動車内装材をトータルで提供できる、世界でも稀有なサプライヤーである当社グループの特長を大いに発揮し、北中米での事業拡大に繋げていきたいと考えています。

 そのほか、インテリア事業においては、(株)シーピーオーと(株)プレテリアテキスタイルの2社を子会社化し、スペース デザイン ビジネスを拡大していくという戦略を推し進め、それによってインテリア事業の売上高の1割以上を当該2社が占めるなど、着実に成果を上げつつあります。車両内装事業においても、2022年7月に関織物(株)を子会社化し、より安定的な生産体制を構築したことに加え、関織物(株)が持つ新たな販路を活かし、売上高・シェア拡大に繋げています。各事業で将来を見据えた「種まき」を進めてきた結果、新しいロゴとともに記したタグライン「あらゆる空間に、イノベーションを。」の言葉を体現する体制を整えることができたと感じています。

 また、経営の舵取り役として、コミュニケーションを密に取ることを常に意識してきました。特に役員とは取締役会や経営会議にとどまらず、情報共有や意見交換を日常的に行い、意思疎通を図っています。なかでも自動車内装事業を統括する丸山常務とは、北米子会社の黒字化プロセスの検討を重ねており、2024年5月期中に実現できる見込みです。財務体質強化の方針においても、管理本部長である薄木常務と考えを一つにし、DEレシオ0.5倍を一つの指標としながら、財務体質の強靭化を進めています。

2023年5月期、営業利益は大幅に改善

 主要取引先である日系自動車メーカーの生産台数が計画より減少したことなどに伴い、期初計画には届きませんでしたが、売上高948億28百万円、営業利益12億94百万円と、前期比では大幅に利益が改善しました。

 セグメント別では、インテリア事業において首都圏を中心とした大型再開発物件の受注などから増収増益になりました。また、店舗向け設計施工会社の(株)シーピーオー、インテリア販売会社の(株)プレテリアテキスタイルが既存事業と相乗効果を発揮し、大型店舗で内装材や造作家具などのトータル提案が採用され、市場浸透への第一歩を踏み出すことができました。

 自動車・車両内装事業では、事業構造改革の一環でメキシコ子会社と連携強化した北米子会社に黒字化の目処が立ったことに加え、グローバルサプライヤーとして北中米市場での拡大に向けた足場を築くことができました。

 機能資材事業では、中国・ベトナム工場の再編が完了し、2023 年5月期からベトナム1 拠点でフル生産しており、最適供給体制の構築を進めることができました。

永田 鉄平

中長期経営目標の進捗状況と2024年5月期の業績見通し

 SGWで示した取り組みも着実に進めてきました。なかでも「CO2排出量の削減、環境対策商材の開発・販売」については、環境性能をより高めた「ECOS NEO™(エコスネオ)」を発売したほか、自動車内装材としてペットボトル再生糸「スミトロン®」を活用したシート表皮「エコニックス」の拡販にも注力しています。今後も環境対応型製品を通じてCO2排出量削減に貢献するとともに、SUMINOEGROUP の事業活動に伴うCO2排出量も削減するなど、環境負荷低減に取り組んでいきます。

 「基幹システムによる業務効率改善」については、第一ステップとして債権・債務および一般会計と生産管理システムを住江織物(株)へ導入しており、経営の意思決定の迅速化や一元管理による在庫管理精度の向上、さらには将来にわたって環境変化への迅速な対応を可能にします。2024年5月期は、第二ステップとして子会社への展開を進めていきます。

 2024 年5月期は、先に述べたように日系自動車メーカーの生産回復が想定よりも遅れるなど、経済の回復が緩やかであったことから、期初計画としてはSGW策定時計画に届かない数値となっています。一方、これまでに進めてきたメキシコでの合成皮革の生産増強と北米子会社との連携強化、インテリア事業でのスペース デザイン ビジネスの拡大などの「種まき」が芽を出し始めたことから、売上高990億円、営業利益26 億円と2023 年5月期と比較して増収増益を見込んでいます。

サステナビリティ課題への取り組みを強化

 サステナビリティ課題に対する企業としての姿勢を示し、取り組みを強化するため、2022年6月に「サステナビリティ基本方針/ 関連方針」を、2023 年6月に「SUMINOEGROUP人権方針」を制定しました。2024年1月には「サステナブル調達ガイドライン」を制定する計画です。人権に関しては、人権デュー・ディリジェンスを実施し、自社事業による人権への負の影響防止・低減に繋げていきます。また、サプライチェーン全体で協働して取り組む「サステナブル調達」に関しては、当社グループの調達方針とサプライヤー行動規範の制定に向け準備を進めています。

 環境への取り組みについては、1998 年に「K(健康)K(環境)R(リサイクル)+A(アメニティ:快適さ)」を発表して以降、室内環境改善やリサイクル材の活用、環境負荷の低減など、環境保全に積極的に取り組んできました。2022年4月には「第二次環境対策宣言~KKR+Aのテーマのもとに~」を策定し、また2031 年5月期までにCO2排出量を2014年5月期比で35%削減するという目標を立て、国内外拠点のエネルギー転換や、当社奈良事業所やタイ子会社への太陽光発電システム導入など、着実に取り組んでいます。環境商材についても、環境性能をより高めるとともにラインアップの充実を図り、グローバル市場での拡大を目指していきます。またTCFD提言に賛同し、温室効果ガス排出量Scope1、2に加え、Scope3を算出すべく2023 年6月にクラウドサービスを導入しました。第一段階として国内主要6事業会社から実施し、2026年5月期には概ね全体の排出量の算出が可能になる計画で、それをもとに具体的施策を検討し、情報開示をしていきます。

 人的資本についてもさらなる取り組みを進めており、グループ理念の再構築や住江織物(株)の「求める人物像」の策定を行いました。求める人物像である「自律」「挑戦」「共創」の3つの項目を支援し、社員が能力を最大限に発揮できる職場環境づくりを進めていきます。制度としては、「キャリア申告制度」を2023年6月に導入し、部門を越えた異動を含めて人材の活性化を促し、企業の成長基盤である「人的資本」の強化を目指していきます。

 ガバナンスについても、取締役会の実効性確保に向けた取り組みを進めています。2023年は、第三者機関によるガバナンス体制の調査と分析を行い、取締役会に結果を報告しました。今後は取り組むべき優先課題を選定し、対応方針を策定していく計画です。また、広く社会の変化に対応するには、社外のステークホルダーの有用なご意見を経営に活かすことが重要であるため、社外取締役からは当社事業のリスクと機会の客観的視点を取り入れ、ガバナンス体制を強化していきます。

永田 鉄平

常に業界の先駆者として新たな時代を切り拓く

 引き続き業績の底上げ、利益率をいかに伸ばすかということを最重要視して取り組みを進めていきます。その一つのカギは、北中米の当社100%子会社3社にあると考えています。メキシコ子会社の新工場での生産が本格稼働を始める今、しっかりと北中米の市場でシェアを獲得できるよう一段とギアを上げ、企業価値の向上に繋げていきます。事業拡大に向けてグローバル人材の育成も同時に進め、また財務体質の改善にも注力し、グローバル市場で存在感を発揮できるための体制・基盤づくりにも力を入れていきます。北中米で得られた知見や成果をもとに、いずれは欧州への進出も本格化させたいと考え、それに向けた「種まき」の準備も検討していきます。

 私自身が今後も進むべき方向性や取り組むべきテーマを社員に対して明確に示すとともに、積極的にチャレンジしていこうという社員の意識改革や育成もしっかりと行い、140年の歴史に坐するのではなく、常に先駆者であり続ける気概を持って、SUMINOE GROUPとして新たな時代を切り拓いていきたいと思います。

2023 年 11 月

住江織物株式会社代表取締役社長永田 鉄平