消臭フィルター

「トリプルフレッシュ®バイオフィルター」
開発ストーリー座談会

当社の「トリプルフレッシュ®バイオフィルター」は冷蔵庫や空気清浄機、セラミックファンヒーターといった家電製品に欠かせない消臭フィルターです。不快なニオイを触媒機能によって消臭し、快適な空間づくりの縁の下の力持ちとして、さまざまな場所で役立っています。研究開発、営業、製造が一体となって「K(健康)K(環境)R(リサイクル)+A(アメニティ:快適さ)」の開発理念のもとに作り上げた消臭フィルターの開発ストーリーをご紹介します。

参加者

西野 善春
住江織物
技術生産本部
テクニカルセンター 開発部
統括グループリーダー
濱崎 孝浩
住江織物
技術生産本部
テクニカルセンター 開発部
機能加工開発グループ
宇野 誠一
住江織物
機能資材事業部
大阪第2営業部
グループリーダー
山口 英司
住江織物
機能資材事業部
大阪第1営業部
堀 善彦
住江テクノ
奈良工場
製造部
加工課フィルター係

新しい消臭技術の誕生秘話

西野
スタートは、消臭フィルターを作ろうとしたわけではありません。もともと、カーテンやカーペットといった当社が従来扱っていた繊維製品に加工するため、消臭加工技術「トリプルフレッシュ®」の研究を1995年頃から行っていました。快適な空間づくりに貢献するため、「消臭」は重要な技術と捉えています。2001年、信州大学から産学共同研究の話をいただいたことが、この消臭フィルターが誕生するきっかけです。それは、これまでの当社の消臭技術とは全く異なる「人工酵素」を使った消臭機能研究でした。
この人工酵素の一部は新幹線の車体に使われる青い顔料としてよく知られていますね。
西野
人工酵素の性質には、ニオイの強い物質を弱い物質に変換する触媒機能があり、この研究をされていた信州大学の教授が、繊維に応用できないかと声をかけてくださいました。当時、開発担当になったのが私でした。しかし、初めはどう使えばいいかわかりませんでした。
人工酵素は青色の顔料として使われているだけあって、カーテンやカーペットなどの繊維製品に使おうにも、真っ青に染まってしまい意匠性が損なわれてしまう。また、短所として紫外線に弱いので、人の目に触れるインテリア内装材としては使えないですものね。
西野
それで見えない場所で働く消臭フィルターとして使えないかと考えました。最初は人工酵素の入った溶液を織物に付けてみようとしたのですが、人工酵素と化学繊維は互いに結合しないため使えないことがわかりました。そこで発想を変え思い切って織物から離れ、紙はどうだろうと考えました。紙なら活性炭を混ぜればニオイ成分を集めることができるし、天然素材なので人工酵素を結合することもできます。紙への人工酵素の結合(染着)は一筋縄ではいきませんでしたが、カーペット染色で培われた技術を活かし、消臭フィルターが完成しました。社内外から多くのアドバイスをいただき、かたちにすることができ、ひとまず達成感で胸がいっぱいでした。完成した消臭フィルターは「トリプルフレッシュ®バイオフィルター」と名付けました。
宇野
お客様からの要望があり研究開発をスタートしたわけではなく、先行開発がキッカケですね。
100個トライして1個うまくいけばよいという感じで、いろいろな研究をしていましたよね。

採用までの長い道のり

西野
完成したフィルターを初めて家電メーカー様に提案させてもらいましたが、採用まであと一歩という段階で不採用。その後も、敗退が続きました。振り返ると敗因の大きな理由は、実際に当社フィルターに触れ、良さを理解いただくところまで持ちこむことができなかったからと思っています。
その当時、西野さんは工場の一角で独り作業をしていましたね。
西野
ありあわせの装置を作って、紙を薬剤に漬けて。ほぼ手作業で試作品を作っていました。
西野
転機が訪れたのは2002年夏。学会で消臭フィルターについて発表をしました。その頃よく冷蔵庫に利用される消臭フィルターには白金などの金属を用いた触媒が使われていました。金属触媒は高温条件下でないと消臭機能を発揮しない。しかし、人工酵素は常温でも働くため、そこにフォーカスした発表を行うと、聞いてくださった大手冷蔵庫メーカーの技術者様から連絡が入りました。試作品を実際に使ってもらい良さを実感してもらうことができ、2003年に冷蔵庫の消臭フィルターとして初めて採用されました。採用が決まったときは本当に嬉しかったです。今でもずっと継続採用をいただいています。
宇野
学会は技術アピールの大切な場になりますね。その後、日本中に売り込みしに行きましたが、しばらくは苦しい時期が続きました。
西野
2010年、「タバコの脱臭を強化したい」「10年耐久のものがほしい」と大手空気清浄機メーカー様から相談をいただきました。当時の消臭フィルターは冷蔵庫向けの消臭実績はありましたが、タバコ臭には強くありませんでした。紙に無機多孔体を入れればタバコのニオイが取れることはこれまでの研究で明らかになっていましたが、紙に無機多孔体を混ぜ込むというのはとても難しい技術でした。
国内製紙メーカーで協力を受けてもらえず、中国の協力工場でチャレンジしました。その頃、紙の品質には相当苦労し、何度も中国に足を運んだのを覚えています。
同じ時期に、手作業中心の生産体制から、機械化した製造ラインに切り替えました。機械で大量の薬剤を均一に付けるのが難しかったのですが、当社がカーペットの染色工程で培っていた技術をここでも参考にし、製造ラインの機械化に成功しました。
濱崎
祖業であるカーペット製造の染色ノウハウが活きているということですね。
西野
当社の元々の強みを新しい事業に活かせたひとつの例だと思います。「なぜ織物会社がフィルターをやっているの?」と聞かれることもありますが、カーペットの製造ラインの一部と技術を使った商品なので、全くの畑違いというわけではありません。
「消臭フィルター」という発想が当時の住江織物としては新しく、画期的でしたね。

BtoC商品への挑戦!Tispaシリーズの誕生

山口
「トリプルフレッシュ®バイオフィルター」を使った家庭用置き型消臭剤を展開しました。Tispaシリーズ「香りでごまかさない 本当の消臭®」です。BtoB製品中心の当社にとっては珍しくBtoCの商品です。
コンパクトなパッケージが特長で、機能的にはすごく良いものです。サイズが小さくても消臭機能を十分に発揮する自信がありました。
山口
2010年、販売を始めたころは販路の獲得に苦労しましたが、少しずつ販路を広げ、現在は多くのドラッグストアや専門店、Webで販売していただいています。
宇野
Tispaの消臭力を実感していただいているお客様はたくさんいらっしゃるようです。ただ、消臭は目で見えないので良さを伝えるのが難しく、使ってもらわないと効果が実感いただけません。さらなる拡販がこれからの課題の一つですね。

これからの消臭研究開発

西野
現在、VOCやオゾンといった、ニオイは強くないけれど人体には有害な化学物質を、フィルターで吸着分解できるように研究を進めています。
山口
新しいものを作っていかなければいけないフェーズに来ているのは確かですね。消臭業界はライバルが多く強豪ばかりなので、私たちとしても常に少しずつ進化していかないといけません。その点では人工酵素にこだわらなくても良いのかもしれませんね。

発想を自由に持ち、新しい画期的な消臭製品を作るために、
今後も製品開発に進んでまいります。